インターネットの 99% は海の底を走っている

「クラウド」という言葉が示すように、インターネットのデータは空中を飛んでいるイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし現実には、国際インターネット通信の約 99% は海底に敷設された光ファイバーケーブルを通じて伝送されています。衛星通信が担う割合はわずか 1% 程度にすぎません。

あなたがIP 確認さんで海外のサーバーに接続したとき、そのデータは文字通り太平洋や大西洋の海底を横断しています。IP アドレスから接続先の国を特定できるのも、こうした物理的なケーブル網があってこそです。この記事では、インターネットの物理的な基盤である海底ケーブルの驚くべき世界を掘り下げます。

海底ケーブルの規模 - 地球 30 周分の光ファイバー

2025 年時点で、世界には約 600 本以上の海底ケーブルが稼働しており、総延長は 130 万キロメートルを超えます。地球の赤道一周が約 4 万キロメートルですから、地球を 30 周以上できる長さです。

これらのケーブルは、直径わずか数センチメートルの管の中に、髪の毛ほどの太さの光ファイバーを数十本束ねた構造です。1 本のケーブルが伝送できるデータ量は、最新のものでは毎秒数百テラビット (Tbps) に達します。Netflix の 4K ストリーミングが約 25 Mbps ですから、1 本のケーブルで数百万人が同時に 4K 動画を視聴できる計算です。

主要な海底ケーブルルート

  • 太平洋横断: 日本・米国間を結ぶケーブルが多数。FASTER (Google 出資、毎秒 60 Tbps)、JUPITER (Amazon 出資) など。日本のインターネットが高速なのは、太平洋ケーブルの集積地であることも一因
  • 大西洋横断: 欧州・北米間。MAREA (Microsoft/Facebook 出資、毎秒 200 Tbps) が大西洋最大級
  • アジア域内: SJC2、APG など。シンガポールが東南アジアのハブとして機能
  • アフリカ周回: 2Africa (Meta 出資、全長 4.5 万 km) がアフリカ大陸を一周し、アフリカのインターネット接続を劇的に改善する計画

海底ケーブルの敷設 - 深海 8,000 メートルへの挑戦

海底ケーブルの敷設は、専用の敷設船 (cable ship) によって行われます。世界に数十隻しか存在しないこの特殊船は、船尾からケーブルを繰り出しながら、海底の地形に沿って正確にケーブルを配置していきます。

ケーブルの構造

海底ケーブルは、深度に応じて異なる防護構造を持ちます。

  • 浅海部 (水深 1,000 m 以浅): 鋼線で二重に装甲し、漁網やアンカーによる損傷を防ぐ。直径は約 5 cm
  • 深海部 (水深 1,000 m 以深): 外部からの物理的脅威が少ないため、装甲を省略し軽量化。直径は約 2 cm。庭のホースほどの太さ
  • 光ファイバー: ケーブルの中心に配置。最新のケーブルでは 16〜24 本のファイバーペアを収容
  • リピーター (中継器): 約 60〜100 km 間隔で設置され、光信号を増幅する。深海の水圧と 25 年以上の耐用年数に耐える設計

敷設にかかるコスト

大洋横断ケーブル 1 本の敷設コストは、数億ドルから 10 億ドル以上に達します。近年は Google、Meta、Microsoft、Amazon などのテック大手が自社専用ケーブルに巨額の投資を行っています。自社のデータセンター間を直結することで、遅延の低減と帯域の確保を実現するためです。

海底ケーブルの天敵 - サメ、アンカー、地震

海底ケーブルは年間約 100〜200 件の障害が発生しています。その原因は意外なものも含まれます。

1. 船舶のアンカーと漁業活動

ケーブル障害の最大の原因は、船舶のアンカー (錨) と底引き網漁です。全障害の約 60〜70% を占めます。浅海部ではケーブルを海底に埋設 (水深 1〜3 m) して保護しますが、それでも大型船のアンカーが直撃すれば切断されます。

2. サメの噛みつき

サメが海底ケーブルに噛みつく事例は実際に報告されています。ケーブルが発する微弱な電磁場をサメが獲物と誤認するという説がありますが、正確な原因は解明されていません。Google は 2014 年に、自社の太平洋ケーブルにケブラー繊維の防護層を追加したと報じられています。ただし、サメによる障害は全体の中ではごく少数です。

3. 地震と海底地すべり

2006 年の台湾南部地震では、海底地すべりにより複数の海底ケーブルが同時に切断され、東アジアのインターネット通信が数週間にわたって深刻な影響を受けました。2011 年の東日本大震災でも、太平洋側の複数のケーブルが損傷しています。

4. 意図的な破壊

海底ケーブルは軍事的・地政学的な標的にもなり得ます。冷戦時代、米国の潜水艦がソ連の海底通信ケーブルを盗聴していた「アイヴィー・ベルズ作戦」は有名です。近年も、バルト海やノルウェー沖で海底ケーブルの不審な損傷が報告されており、安全保障上の懸念が高まっています。

ケーブルが切れたらどうなるのか

主要な海底ケーブルが切断されると、その経路を通る通信は他のケーブルに迂回されます。インターネットの経路制御プロトコル (BGP) が自動的に代替経路を選択するため、多くの場合、エンドユーザーが気づかないうちに復旧します。ただし、DNS の名前解決も海底ケーブルを経由しているため、ケーブル障害時には Web サイトへのアクセスが一時的に遅延することがあります。

ただし、ケーブルの冗長性が低い地域では深刻な影響が出ます。太平洋の島嶼国やアフリカの一部地域では、1〜2 本のケーブルに依存しているため、切断されるとインターネット接続が完全に失われることがあります。2022 年のトンガ火山噴火では、唯一の海底ケーブルが切断され、トンガは約 5 週間にわたってインターネットから孤立しました。

修理の過程

ケーブルの修理は専用の修理船が行います。障害箇所を特定し、海底からケーブルを引き揚げ、損傷部分を切除して新しいケーブルを接続 (スプライス) します。深海での修理には数日から数週間を要し、費用は 1 件あたり数百万ドルに達することもあります。

海底ケーブルと遅延 - 光の速度の限界

光ファイバー内の光の伝搬速度は、真空中の光速 (約 30 万 km/s) の約 3 分の 2、つまり約 20 万 km/s です。東京からロサンゼルスまでの海底ケーブルの距離は約 9,000 km ですから、片道の伝搬時間は約 45 ミリ秒になります。往復で約 90 ミリ秒。これが物理的な遅延の下限です。

実際には、リピーターでの信号処理、陸揚げ局でのルーティング、ネットワーク機器での処理が加わるため、東京-ロサンゼルス間の実測 RTT (Round Trip Time) は 100〜120 ミリ秒程度になります。IP 確認さんで海外サーバーへの接続を確認すると、この物理的な距離に起因する遅延を体感できます。

高頻度取引 (HFT) の世界では、この数ミリ秒の差が巨額の利益を左右するため、最短経路の海底ケーブルに莫大な投資が行われています。

海底ケーブルの地政学

海底ケーブルは、21 世紀の地政学における重要なインフラです。

  • データ主権: 自国のデータが他国の領海を通過するケーブルを経由することへの懸念から、新しいケーブルルートの選定に政治的な配慮が求められるようになっている。こうした懸念から、VPN による通信の暗号化の重要性も高まっている
  • テック大手の影響力: Google、Meta、Microsoft、Amazon の 4 社が、世界の新規海底ケーブル投資の大部分を占めている。かつては通信キャリアのコンソーシアムが主導していたが、テック大手の自社ケーブル建設が急増している
  • チョークポイント: エジプトのスエズ運河周辺、マラッカ海峡、ジブラルタル海峡など、地理的にケーブルが集中する地点は、障害や攻撃のリスクが高い

まとめ - 見えないインフラが支える日常

あなたがこの記事を読んでいるこの瞬間も、データは海底数千メートルの光ファイバーを駆け抜けています。「クラウド」の実体は、海底に横たわる直径数センチメートルのケーブルと、その中を走る光のパルスです。

IP 確認さんで自分の IP アドレスと接続先を確認するとき、そのデータがどの海底ケーブルを通っているのかを想像してみてください。TeleGeography の Submarine Cable Map (submarinecablemap.com) では、世界中の海底ケーブルの位置をインタラクティブに確認できます。

海底ケーブルとインターネットインフラの全体像を知りたい方には、通信インフラの解説書が参考になります。

この記事の関連用語

IP アドレス インターネット上のデバイスを識別するための数値アドレス。IPv4 と IPv6 の 2 種類があり、通信の送受信先を特定するために使用される。 レイテンシ (遅延) データが送信元から宛先に到達するまでにかかる時間。物理的な距離、ネットワーク機器の処理、経路の混雑などが影響する。 BGP (Border Gateway Protocol) インターネット上の自律システム (AS) 間で経路情報を交換するプロトコル。インターネットの「道路地図」として、データの最適な経路を決定する。 ISP (インターネットサービスプロバイダ) 個人や企業にインターネット接続サービスを提供する事業者。回線の種類、速度、料金体系は ISP によって異なる。 DNS (ドメインネームシステム) ドメイン名を IP アドレスに変換するインターネットの基盤システム。Web サイトへのアクセス時に、ブラウザが最初に問い合わせる仕組み。