VPN を使うと速度が落ちる - これは避けられない
VPN を使うとインターネットの速度が落ちる。これは VPN の仕組み上、原理的に避けられない現象です。問題は「なぜ遅くなるのか」を理解せずに、速度低下を VPN サービスの品質のせいだと誤解してしまうことです。
VPN の速度低下には明確な技術的理由があり、その理由を知れば、どこまでが正常でどこからが問題なのかを判断できるようになります。
速度が落ちる 3 つの技術的理由
1. 暗号化の処理コスト
VPN はすべての通信データを暗号化します。送信時にデータを暗号化し、受信時に復号する処理が加わるため、その分だけ遅延が発生します。
現代の暗号化アルゴリズム (AES-256-GCM など) は高速に設計されていますが、それでもゼロコストではありません。特にスマートフォンやタブレットなど、CPU 性能が限られるデバイスでは影響が顕著です。
2. 物理的な距離の増加
VPN なしの場合、データは最短経路で目的のサーバーに到達します。VPN を使うと、まず VPN サーバーを経由してから目的地に向かうため、通信経路が長くなります。
東京から米国のサイトにアクセスする場合を考えてみましょう。VPN なしなら東京→米国の直線的な経路ですが、VPN サーバーがシンガポールにあれば、東京→シンガポール→米国と迂回します。光の速度は有限なので、物理的な距離が増えれば遅延も増えます。
3. VPN サーバーの混雑
VPN サーバーは多数のユーザーの通信を同時に処理しています。サーバーの処理能力や帯域幅には上限があるため、利用者が集中する時間帯 (夜間のゴールデンタイムなど) は速度が低下します。
これは VPN サービスの品質に直結する部分で、サーバー数が多く、インフラに投資しているサービスほど混雑の影響が小さくなります。
VPN プロトコル別の速度特性
VPN プロトコルの選択は速度に大きく影響します。
| プロトコル | 速度 | 特徴 |
|---|---|---|
| WireGuard | 最速 | コード量が少なく (約 4,000 行)、暗号化処理が軽量。最新のプロトコル |
| IKEv2/IPsec | 高速 | モバイル環境に強く、Wi-Fi とモバイル回線の切り替えが高速 |
| OpenVPN (UDP) | 中速 | 安定性と互換性に優れるが、WireGuard より 20-30% 遅い傾向 |
| OpenVPN (TCP) | 低速 | TCP over TCP 問題で速度が低下しやすい。ファイアウォール回避用 |
WireGuard は OpenVPN と比較して、スループットで 2〜3 倍、レイテンシで 30〜50% の改善が報告されています。速度を重視するなら WireGuard 対応のサービスを選ぶのが合理的です。
速度低下を最小限にする実践的な対策
- 最寄りのサーバーを選ぶ: 物理的に近いサーバーほど遅延が小さい。日本国内のサイトにアクセスするなら日本のサーバーを選択する
- WireGuard プロトコルを使う: 対応しているなら WireGuard を優先的に選択する
- 混雑時間帯を避ける: 夜間 (20〜24 時) はサーバーが混雑しやすい。重要なダウンロードは日中に行う
- スプリットトンネリングを活用する: VPN を通す通信と通さない通信を分ける。動画ストリーミングは VPN を通さず、機密性の高い通信だけ VPN を通すことで、全体の速度低下を抑えられる。ただし、スプリットトンネリングを使う場合は VPN 外の通信が保護されないため、VPN キルスイッチの設定と合わせて安全性を確保すること
- 有線接続を使う: Wi-Fi 自体の速度ロスを排除することで、VPN の速度低下だけに絞り込める
どのくらいの速度低下が「正常」なのか
VPN による速度低下の目安は以下のとおりです。
- 10〜20% の低下: 優秀。近距離サーバー + WireGuard で達成可能
- 20〜40% の低下: 標準的。OpenVPN や中距離サーバーで一般的
- 40〜60% の低下: 遠距離サーバーや混雑時に発生。許容範囲だが改善の余地あり
- 60% 以上の低下: サーバーの混雑、プロトコルの問題、または ISP による VPN 通信の制限 (スロットリング) を疑う
VPN の速度を正確に測定するには、VPN 接続前と接続後の両方で速度テストを実行し、比較します。このサイトのトップページで表示される RTT (往復遅延時間) も、VPN 接続の影響を確認する指標になります。
VPN の技術的な仕組みを体系的に学びたい方には、ネットワークセキュリティの専門書が参考になります。