Do Not Track (DNT) とは
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最終更新: 2026-08-14
Do Not Track とは
Do Not Track (DNT) とは、Web ブラウザから Web サイトに対して「トラッキングしないでほしい」という意思を伝える HTTP ヘッダーの仕組みです。ユーザーがブラウザの設定で DNT を有効にすると、すべての HTTP リクエストに DNT: 1 というヘッダーが付加されます。
DNT の原型は 2009 年に研究者が Firefox 拡張として実装した提案で、2010 年 12 月に FTC (米国連邦取引委員会) が報告書で同種の仕組みを提唱したことで一気に注目されました。2011 年から主要ブラウザへの実装が始まりましたが、その後の経緯は期待とは大きく異なるものになりました。
DNT が機能しない理由
DNT の最大の問題は、法的拘束力がないことです。Web サイトは DNT ヘッダーを受け取っても、それに従う義務がありません。実際、大手広告ネットワークやソーシャルメディアプラットフォームの大半は DNT シグナルを無視しています。
W3C (World Wide Web Consortium) は 2019 年に DNT の標準化作業を正式に中止しました。主な理由は以下のとおりです。
- 広告業界が DNT への対応を拒否し、実効性が確保できなかった
- DNT を有効にしているユーザーの割合が少なく、サイト側に対応するインセンティブがなかった
- 逆説的に、DNT を有効にしていること自体がブラウザフィンガープリントの一要素となり、ユーザーの識別に利用される可能性が指摘された
DNT に代わる仕組み
DNT の失敗を受けて、より実効性のある仕組みが登場しています。
- GPC (Global Privacy Control): DNT の後継として 2020 年に提案されたシグナル。カリフォルニア州の CCPA/CPRA が、こうしたオプトアウト設定を事業者が尊重すべきものとして扱っており、この法的な裏付けが DNT との最大の違いです (EU の GDPR が GPC を名指しで認定しているわけではありません)。ブラウザ側の既定は一様ではなく、Brave は通常のウィンドウでも送信、Firefox はプライベートウィンドウのみ既定で有効で通常のウィンドウは設定から有効にする形です (2026 年 8 月時点)。
- ブラウザのトラッキング防止機能: Safari の ITP、Firefox の ETP (Enhanced Tracking Protection) など、ブラウザ自体がトラッキングを技術的にブロックする方式。サイト側の協力を必要としない点が DNT との決定的な違いです。ただし既知のトラッカー一覧や挙動の検出に依存するため、新しい手法や計測をサイト自身のドメインに寄せる手口は取りこぼします。
- Cookie 同意バナー: EU 圏では、端末への Cookie 保存そのものに事前同意を求める ePrivacy 指令 (Cookie 指令) と、同意の要件を定める GDPR の組み合わせにより、トラッキング Cookie の使用前に明示的な同意を取得する義務があります。
実効性のある推奨対策
DNT の設定自体は無害ですが、それだけに頼るのは危険です。実効性のある対策を組み合わせましょう。
- サードパーティ Cookie をブラウザ設定でブロックする
- Firefox や Brave など、トラッキング防止機能が強力なブラウザを使用する
- トラッキングピクセルをブロックする拡張機能 (uBlock Origin 等) を導入する
- GPC に対応したブラウザや拡張機能を使用する
- プライバシー重視の検索エンジンを利用する
もう一つ押さえておきたいのは、DNT も GPC も「追跡しないでほしい」という意思表示を 1 行付け足すだけの仕組みで、リクエストの中身そのものは変えないという点です。DNT を有効にしても、IP アドレスの確認ページに表示される IP アドレスや接続元の情報は何も変わりません。表示される内容まで変えたいのであれば、VPN やプロキシで通信経路を差し替える必要があります。
DNT の歴史と GPC への進化
DNT の歴史を振り返ると、技術標準だけではプライバシー保護が実現しないという教訓が浮かび上がります。
DNT の標準化の経緯: 2009 年にセキュリティ研究者の Christopher Soghoian と Sid Stamm が Firefox 拡張として原型を実装し、2010 年 12 月に FTC が報告書で同種の仕組みを提唱しました。2011 年には Firefox 4 が最初に DNT ヘッダーを実装し、同年に IE 9 が続きます (Safari と Chrome の対応は 2012 年でした)。W3C も 2011 年に Tracking Protection Working Group を設置して標準化に着手しましたが、広告業界の代表と消費者団体の間で「トラッキング」の定義すら合意できず、議論は膠着しました。2013 年 9 月には業界団体の DAA (Digital Advertising Alliance) が Working Group から離脱し、2019 年 1 月に W3C は Working Group を閉じて標準化を正式に断念しました。
GPC の法的裏付け: GPC (Global Privacy Control) は DNT の教訓を踏まえ、法的強制力を前提に設計されています。カリフォルニア州の CCPA/CPRA は、GPC シグナルを「個人情報の販売・共有に対するオプトアウト要求」として法的に有効と認めています。2022 年 8 月には、GPC 経由のオプトアウト要求を処理していなかった化粧品小売企業がカリフォルニア州司法長官と 120 万ドルで和解し、CCPA に基づく最初の執行事例となりました。コロラド州やコネチカット州のプライバシー法も GPC を認めており、法的裏付けは拡大傾向にあります。
実践的なプライバシー強化策: DNT の設定に期待するより、ブラウザの選択と設定から手を付けるほうが現実的です。Firefox はデフォルトで ETP (Enhanced Tracking Protection) が有効で、既知のトラッカーを自動ブロックします。さらに公式拡張の Multi-Account Containers を導入すると、SNS やショッピングサイトのトラッキングをサイトごとに隔離できます。Brave はデフォルトで広告とトラッカーをブロックし、GPC も有効です。拡張機能では uBlock Origin がフィルターリストベースで広範なトラッカーをブロックし、Privacy Badger は EFF が事前に学習させたトラッカー一覧を配布する方式で、サイトを横断して追跡する挙動のドメインをブロックします (ブラウザ内での学習は 2020 年 10 月に既定で無効化されました)。これらを組み合わせることで、DNT に頼らない実効性のあるプライバシー保護が実現できます。
よくある誤解
- Do Not Track を有効にすれば Web サイトに追跡されなくなる
- DNT は「追跡しないでほしい」という意思表示にすぎず、法的拘束力はありません。大半の Web サイトや広告ネットワークは DNT シグナルを無視しています。
- Do Not Track は廃止されたので設定しても意味がない
- W3C の標準化は中止されましたが、一部のプライバシー重視サイトは今も DNT を尊重しています。また、後継の GPC は法的根拠を持ち、実効性が高まっています。設定しておいて損はありません。